わたしのACPとの出会い

はじめて、ACP について考えるようになったのは、今から13 年前に祖母の最期を看取った時にさかのぼります。

祖母は骨折後認知症が進み、どんどん食事が食べれなくなっていきました。主治医からは胃ろうをすれば肺炎のリスクも少なくなるからと胃へ直接栄養を送り込む方法を提案されましたが、家族としては、長年認知症で寝たきりになってしまっている祖母はどう考えるか悩みました。 もともと甘いものが好きだった祖母。口から食べられないことへの苦痛ははなり知れないとおもいました。

結局、家族としては、元気なころの祖母だったらどう選択するか?と考えたうえで、胃ろうはせず自然な流れで看取ることを選択しました。

祖母は家族に見守られながら穏やかに息を引き取りましたが、家族としては、本当にこの選択でよかったのか?という思いが残りました。そうするうちに、祖母の部屋を片付けていると、戸棚から「遺書」と書かれた封書が出てきたのです。そこには、「延命治療はいかなる場合もやめてほしい」と達筆な文字で記されていました。

それを読んだ瞬間に、なにかつきものが落ちたような、安堵した思いが忘れられません。

祖母の生前、認知機能が低下する前にそのような話を具体的にした覚えはありませんが、祖母は自分ひとりで自分の今後を考えてひとりでそのような手紙を残していたのだと思うと、なぜもっと元気なうちに話をしておかなかったのかと悔やまれました。

この思いが、今の私の元気なうちから、自分の将来的な医療やケアへの考え方を回りの人達と話しておくACPをすすめていきたいという気持ちの原点になっています。

同時に、実際の臨床場面でも、もっと早くから話し合っておけばよかったなというケースが多く、どのような方法であれば、うまくいくのだろう?と色々な文献を探り始めた中で、「事前指示書」というものを知りました。

アメリカではすでに「事前指示書」という事前に自分の意思を書面に残しておく、それを医療者にも伝えておくものの法制化が進み、少しずつ普及しつつあるということを知りました。私も日本でぜひこのような情報が多くの人に知ってもらって活用していければ、という思いから自分なりに考えた事前指示書を作成して地域で普及活動をしたり、普及を図るためにその必要性を訴える動画を作成したりしてきました。

ただ、残念なことに、この「事前指示書」が残されているだけでは、本人が望む治療やケアは実践されていないという研究報告もあります。実際、私の祖母も自分で書いて戸棚にしまっているだけだったので、いざというときの意思決定の際には活用することができませんでした。

そこで、事前指示書の課題を補完するために考えられた、事前に「話し合いを行う」というACP「事前に自分の将来的な医療やケアへの希望について話しあうプロセス」の理解を深めてもらうことが大切だという考えに至り、今は様々な市民向け講座や医療介護従事者の方たちとその在り方について考える機会を持つようになっています。

佛教大学 准教授 濱吉 美穂
Advance Care Planning、
Advance Directive 高齢者のEnd of Life care